アート思考で発見する、日常に潜む「問い」の種
アート思考は、「あたりまえ」と思っていることの中に潜む可能性や、固定観念にとらわれないものの見方を探求するための思考法です。この思考法の出発点となるのは、しばしば「問い」であると言われます。
しかし、「問いを立てましょう」と言われても、どこから始めれば良いのか分からない、そもそも何を問えば良いのか分からない、と感じる方もいらっしゃるかもしれません。私たちは日々の生活の中で、多くのことをあたりまえとして受け入れ、疑問を持つ機会が少ないからです。
実は、「問い」の種は、あなたの日常の中にたくさん潜んでいます。この記事では、アート思考の考え方を活かし、見過ごしがちな日常の中から自分ならではの「問いの種」を見つけ出す方法についてご紹介します。
アート思考における「問い」の重要性
アートの世界では、完璧な答えを求めるよりも、新しい問いを生み出すこと自体に価値が置かれることがあります。アーティストは、既存の常識や価値観に疑問を投げかけ、自分自身の内側から湧き上がる興味や関心を探求し、それを作品として表現します。
このプロセスは、私たちがアート思考を学ぶ上でも非常に参考になります。アート思考における「問い」は、単に知識を得るための疑問ではなく、あなたの内面にある興味や違和感、関心を掘り下げるための入り口となります。
問いを持つことは、あなたのものの見方を変え、あたりまえだと思っていた世界に新しい光を当てるきっかけとなります。そして、その問いを探求する過程そのものが、あなた自身の創造性や思考力を養っていくのです。
日常という宝庫に眠る「問いの種」
では、「問いの種」は具体的にどのようなものでしょうか。それは、次のような、あなたが日々の生活でふと感じるささやかな心の動きの中に隠されています。
- 小さな違和感: いつもと違うと感じること。「あれ?なぜここはこうなっているんだろう?」
- ふとした興味: 何気ないものや出来事に対して「これは一体どういうことだろう?」と心が動くこと。
- 納得できないこと: 世の中の常識や仕組みに対して「本当にこれで良いのだろうか?」と感じること。
- 個人的なこだわり: 他の人は気にしないけれど、自分だけが強く惹かれたり、気になったりすること。
これらの「問いの種」は、通勤途中の風景、スーパーの陳列棚、街を歩く人々、家族との会話、読んだ本の一節、インターネットで見かけた画像など、あらゆる日常の瞬間に潜んでいます。しかし、私たちは忙しさにかまけて、あるいは「あたりまえ」として受け流してしまい、それらに気づかずに過ごしていることがほとんどです。
「問いの種」を見つけ、育てるためのステップ
日常に潜む「問いの種」を見つけ、自分自身の探求へとつなげていくためには、いくつかのステップがあります。
ステップ1:意識的に「気にかける」練習をする
まずは、普段何気なく見ているもの、聞いていること、触れているものに対して、少し立ち止まって意識を向けてみましょう。
- 観察: いつも通る道にある看板の色が変わったことに気づくかもしれません。
- 傾聴: 街の音の中に、普段聞き慣れないリズムがあるかもしれません。
- 五感を使う: 手に取った物の質感や重さ、匂いなどをじっくりと感じてみましょう。
あたりまえだと思っている風景や状況を、初めて見るかのように観察する練習は、「問いの種」を発見する感度を高める上で非常に有効です。
ステップ2:見つけた「種」を記録する
「あれ?」と思ったこと、心に引っかかったこと、漠然とした興味や疑問を感じたことを、そのままにせず記録しましょう。
- メモ帳やスマートフォンのメモ機能: 気づいたキーワードや短いフレーズを書き留めます。
- 写真: 気になったもの、不思議に思ったものを写真に撮っておきます。
- ボイスレコーダー: 感じたことや頭に浮かんだことを言葉にして残しておきます。
記録することで、曖昧だった感覚が形になり、後から見返したときに新たな気づきにつながることがあります。記録は、あなたが「問いの種」を大切に扱う第一歩です。
ステップ3:「なぜ?」「どうして?」と深掘りする
記録した「問いの種」について、もう少し深く考えてみます。
- 「なぜ、これが気になったのだろう?」
- 「どうして、この光景に違和感を感じたのだろう?」
- 「この興味は、自分のどんな経験や価値観とつながっているのだろうか?」
すぐに答えが出なくても構いません。自分自身に問いかけること自体が、あなたの内面にある興味や関心を掘り下げ、漠然とした「種」をより具体的な「問い」へと育てていくプロセスです。
ステップ4:言葉や形にしてみる
漠然とした感覚や疑問を、具体的な言葉や、可能であれば簡単なスケッチなどで表現してみましょう。
例えば、電車の中の乗客たちの無表情が気になったとします。「なぜ、みんなこんなに疲れて見えるのだろう?」という問いが浮かんだとします。さらに、「この無表情は、現代社会の何を映し出しているのだろう?」と問いを深めていくことができます。
言葉にすることで、問いの焦点が定まり、次に何を考えたり、調べたりすれば良いのかが見えやすくなります。
「問いの種」を育むことの価値
見つけた「問いの種」は、すぐに大きな答えや結論にたどり着くものではありません。むしろ、その種を大切に心に留め、時間をかけて育んでいくことがアート思考では重要視されます。
問いを持ち続けることで、あなたの日常のあらゆる情報が、その問いと関連付けて捉えられるようになります。本を読んだり、人と話したり、美術館に行ったりすることが、すべてあなたの問いを深めるためのヒントとなる可能性があります。
このプロセスは、あなたの世界を広げ、新しい視点を与えてくれます。そして、時には思いもよらない発見や、あなた自身の内面に関する深い理解につながることもあります。
まとめ
アート思考の旅は、「問い」を見つけることから始まります。そして、その「問い」は特別な場所にあるのではなく、あなたが毎日を過ごす日常の中に、そっと隠されています。
小さな違和感、ふとした興味、漠然とした疑問。これらはすべて、あなたの内面から生まれた大切な「問いの種」です。これらの種に気づき、記録し、そっと心の中で育んでいくことで、あなたの日常はもっと豊かになり、あたりまえの景色が問いと発見に満ちたものに変わっていくでしょう。
ぜひ今日から、あなたの日常に潜む小さな「問いの種」を探してみてはいかがでしょうか。