アート思考のはじめ方

アート思考入門:「なぜ?」から始まる、あなたの「あたりまえ」の問い直し方

Tags: アート思考, 問い, あたりまえ, 創造性, 発想, 日常

アート思考という言葉に興味はあるけれど、何から始めれば良いのか、難しそうだと感じている方もいらっしゃるかもしれません。アート思考は、美術館で作品を鑑賞することだけではなく、実は私たちの日常の物事の見方や考え方に深く関わっています。そして、その核心にあるのが「問いを立てる」ということです。

アート思考と「問い」の関係

私たちは日々の生活の中で、多くのことを「あたりまえ」として受け入れています。朝起きて顔を洗う、電車に乗って通勤する、仕事をする、買い物をする。これらはスムーズに生活を送るために必要な習慣であり、疑うこともなく行っています。

しかし、アート思考では、この「あたりまえ」に対して「なぜ?」と問いを立てることを大切にします。なぜ私たちはこのような生活を送っているのだろう?なぜこのやり方が最善なのだろう?本当にそうだろうか?といった問いです。

アート作品が生み出される過程も、多くの場合、アーティストが特定のテーマや社会に対して「なぜそうなるのだろう」「他の可能性はないだろうか」といった問いを持つことから始まります。その問いを探求し、形にしたものが作品となるのです。

このように、アート思考において「問い」は、新しい発想や視点を得るための重要なスタート地点となります。正解を求めるのではなく、多様な可能性を探るための道しるべとなるのです。

あなたの「あたりまえ」に気づくヒント

では、私たちの日常に潜む「あたりまえ」に気づくにはどうすれば良いでしょうか。長年培ってきた習慣や価値観は、無意識のうちに私たちを支配していることがあります。

まずは、少し立ち止まって、普段何気なく行っている行動や、当然だと思っている考え方について意識を向けてみましょう。例えば、

これらは悪いことではありませんが、これらを一度疑ってみることが「あたりまえ」に気づく第一歩です。自分の内面に意識を向け、「なぜ私はこれをあたりまえだと思っているのだろう?」と静かに問いかけてみるのです。

良い「問い」を立てるための具体的な方法

「あたりまえ」に気づいたら、いよいよ「問い」を立ててみましょう。アート思考における「良い問い」とは、必ずしも答えがある問いではなく、考えを深めたり、新しい視点をもたらしたりする問いです。以下に、良い問いを立てるためのいくつかの方法をご紹介します。

  1. 「なぜ?」を深く掘り下げる: 目の前にあることや、自分が「あたりまえ」だと思っていることに対して、「なぜこうなっているのだろう?」「なぜ私はこう考えてしまうのだろう?」と繰り返し問いかけてみましょう。すぐに答えが出なくても構いません。その問い自体が、思考の幅を広げます。

    • 例:「なぜ、いつも朝ごはんはパンなんだろう?」→「簡単に済ませたいからかな?」→「なぜ簡単に済ませたいのだろう?」→「時間がないからだ」→「なぜ朝は時間がないのだろう?」...といった具合に掘り下げます。
  2. 視点を変えてみる: 自分以外の誰かの立場になって考えてみたり、全く別の角度から物事を見てみたりすることで、新しい問いが生まれます。

    • 例:あなたが通勤している電車の遅延について。「なぜ電車は遅れるんだ?」とイライラするのではなく、「もし私がこの電車の運行責任者だったら、何を一番心配するだろう?」「もしこの電車に乗っている海外からの旅行者だったら、この状況をどう感じるだろう?」と考えてみます。
  3. 前提を疑う: 私たちが「あたりまえ」だと思っていることには、しばしば隠された前提があります。その前提自体に「本当にそうか?」と問いかけてみます。

    • 例:「会議は顔を合わせて行うべきだ」という前提がある場合、「なぜ顔を合わせる必要があるのだろう?」「オンラインではダメな理由は何だろう?」「顔を合わせないことで得られるメリットはないだろうか?」と問いかけます。
  4. あえて逆を考えてみる: 物事がこうあるべきだ、と思っていることの真逆を想像してみます。

    • 例:「仕事は昼間にするものだ」という「あたりまえ」に対して、「もし夜中に仕事をしたら、どんなことが起きるだろう?」「昼間寝て、夜働くことで、どんなメリット・デメリットがあるだろう?」と問いを立てます。
  5. 五感を研ぎ澄ませて観察する: 頭の中で考えるだけでなく、実際に五感を使って周りの世界を注意深く観察することで、思わぬ気づきや問いが生まれます。

    • 例:いつもの通勤路を歩きながら、目に見えるものだけでなく、聞こえてくる音、漂ってくる匂い、肌で感じる空気などをいつもより意識してみます。「なぜこの場所からは、いつも同じ匂いがするのだろう?」「この音はどこから聞こえてくるのだろう?」といった問いが生まれるかもしれません。

日常に「問い」を取り入れる練習

いきなり壮大な問いを立てる必要はありません。まずは、目の前にある小さな「あたりまえ」に対して、気軽に「なぜ?」と問いかけてみることから始めてみましょう。

朝起きて最初に見るもの、手に取るもの、歩く道、食べるもの。それら全てが問いの対象になり得ます。「なぜこのコーヒーカップは、この形なのだろう?」「なぜこの道は、いつもこんなに混んでいるのだろう?」

心の中で問いかけるだけでなく、ノートに書き出してみるのも良い方法です。頭の中だけだと曖昧になってしまいがちな思考が、文字にすることで整理され、さらに新しい問いが生まれることもあります。

おわりに

アート思考は、決して特別な才能が必要なものではありません。「あたりまえ」に気づき、そこに「問い」を立てることから始まる、物事を深く見つめるための一つの方法です。

最初は難しく感じるかもしれませんが、日常生活の中で意識的に問いを立てる練習を続けることで、きっと新しい発見があるはずです。あなたの日常が、少しずつ新鮮なものに見えてくるかもしれません。「なぜ?」という好奇心を持って、あなたの「あたりまえ」を問い直す旅を始めてみませんか。