アート思考のはじめ方

アート思考で「音」の世界を旅する:あたりまえの響きから新しい問いを見つける

Tags: アート思考, 日常, 音, 問い, 気づき, 五感

私たちは普段、どれだけ周りの音に意識を向けているでしょうか。車の走る音、話し声、鳥のさえずり、家電の稼働音。様々な音が絶えず私たちの周りに存在していますが、そのほとんどを「あたりまえ」として聞き流しているかもしれません。

アート思考は、こうした日常に潜む「あたりまえ」に目を向け、そこから問いを見つけ出す考え方です。今回は、身近な「音」をテーマに、アート思考で日常の解像度を高めるヒントを探求してみましょう。

日常を彩る、意識されない「音」の多様性

私たちの日常は、実に多様な音に満ちています。 朝目覚めたときに聞こえる遠くの電車の音。 キッチンから聞こえる水を流す音。 オフィスでのキーボードを打つ音。 街を歩いているときに聞こえる話し声やBGM。 そして、雨の日の静かなしずくの音や、風が木々を揺らす音など、自然の音も。

これらの音は、私たちの生活の背景として存在し、多くの場合、特定の情報や危険を伝える音(警報、呼びかけなど)以外は、無意識のうちにフィルタリングされています。私たちの脳は、膨大な情報の中から必要なものだけを選び取る機能を持っており、繰り返し聞く音や重要度の低い音は「ノイズ」として処理されがちなのです。

しかし、アート思考の視点では、この「ノイズ」の中にも、豊かな世界や新しい気づきが潜んでいると捉えます。「あたりまえ」として聞き流していた音に、意図的に耳を傾けてみましょう。

音に耳を澄ませ、「なぜ?」を問い直す

アート思考で音にアプローチする第一歩は、「意識的に聞く」ことです。例えば、静かな部屋に座り、目を閉じてみてください。どんな音が聞こえてくるでしょうか。

時計の秒針の音。 冷蔵庫の低いモーター音。 自分の呼吸の音。 遠くの工事の音。 外を通る車の音。

これまで気にも留めなかった音が、鮮明に聞こえてくるかもしれません。次に、その音一つ一つに対して、「なぜ?」という問いを立ててみます。

たとえば、冷蔵庫のモーター音。普段は存在すら忘れていますが、「なぜこの音?」と問い直すと、「中の温度を一定に保つため」「熱を放出している音」「電気を使っている証拠」といった物理的な理由に加えて、「私たちの食料を新鮮に保ってくれている」「日々の生活を支える当たり前の技術」といった意味や背景が見えてくるかもしれません。

また、外から聞こえる子供たちの声に耳を澄ませると、彼らが何をしているか、どんな遊びをしているか、どんな感情でいるかなどを想像できます。その音は、街の活気や、季節の移り変わり(夏休み中の声など)を示唆しているかもしれません。

音の「風景」を描き出し、新たな視点を得る

アート思考では、対象を様々な角度から捉え直します。音についても同様です。

耳で聞いた音を、視覚や他の感覚と結びつけてみましょう。 「この音はどんな色だろう?」「どんな形をしているだろう?」「どんな手触りだろう?」

例えば、雨の音。「しとしと」という音は、透明感のある水色や、柔らかい布のようなイメージかもしれません。「ザーザー」という激しい雨の音は、濃いグレーや黒、あるいは荒々しいテクスチャを連想させるかもしれません。

また、「音の地図」を作ってみるのも面白いでしょう。自宅や職場の周りで聞こえる音の種類と、その音源の場所を書き出してみるのです。普段意識していなかった音が、実は様々な場所から、様々なパターンで聞こえていることに気づくでしょう。それはまるで、音によって描かれた自分だけの風景画のようです。

こうしたプロセスを通して、私たちは単に音を聞き分けるだけでなく、音の持つ情報、音と環境の関係性、音が生み出す雰囲気や感情といった、より深い側面に意識を向けることができます。

「あたりまえ」の音に気づくことで広がる世界

日常の音に意識的に耳を傾け、問いを立て、多角的に捉え直すことは、特別なことではありません。それは、私たちを取り巻く世界への感度を高めるための、身近なアート思考の実践です。

これまで単なる「ノイズ」として聞き流していた音に、新しい意味や物語を見出すことができるかもしれません。静寂の中に潜む微かな音に気づくことで、時間の流れや空間の広がりをいつもと違う形で感じられるかもしれません。

「音」というあたりまえの存在に、アート思考のまなざしを向けてみましょう。あなたの日常が、これまでとは違う豊かな響きに満ちていることに気づくはずです。そして、その響きの中から、きっとあなた自身の新しい問いや創造性の種が見つかることでしょう。