アート思考のはじめ方

身の回りの「もの」をアート思考で見つめ直すヒント

Tags: アート思考, 日常, もの, 問い直し, 持ち物

日常にあふれる「もの」を、あなたはどれだけ意識していますか?

私たちの身の回りには、実にたくさんの「もの」があります。スマートフォン、マグカップ、洋服、ペン、椅子。どれも当たり前のようにそこにあって、日々の暮らしを支えてくれています。

しかし、私たちは普段、これらの「もの」一つひとつについて、深く考えたり、感じたりする機会は少ないかもしれません。それは便利だから、必要だからと選んだはずなのに、いつの間にかその存在が「あたりまえ」になり、意識することすらなくなってしまうことがあります。

アート思考は、「あたりまえ」を問い直し、新しい視点で見つめ直す考え方です。今回は、このアート思考を「身の回りのもの」に適用することで、日常にどのような変化や気づきが生まれるのか、そのヒントをご紹介したいと思います。

なぜ、アート思考で「もの」を見つめ直すことが大切なのか

私たちは「もの」を選ぶとき、多くの場合、機能性や価格、ブランドなど、表面的な情報や合理的な理由で判断しがちです。もちろん、それらは大切な要素ですが、それだけでは見えてこない「もの」の側面がたくさんあります。

アート思考の視点を取り入れると、「もの」を単なる道具や消費の対象としてではなく、もっと多角的に捉えることができるようになります。

例えば、その「もの」が生まれるまでの背景に思いを馳せたり、形や色に込められた意図を感じ取ろうとしたり、それが自分にとってどのような意味を持つのかを深く考えてみたり。そうすることで、「もの」一つひとつが持つ物語や、それを選んだ自分自身の価値観に気づくことができるのです。

これは、まるで美術館で作品を鑑賞するように、「もの」とじっくり向き合う体験と言えるでしょう。単に「見て」通り過ぎるのではなく、「感じて」「考えて」「問いかける」ことで、普段見慣れたはずの「もの」が、全く違った表情を見せてくれることがあります。

アート思考で「もの」を見つめる具体的な問いかけ

では、具体的にどのようにして身の回りの「もの」をアート思考で見つめ直せば良いのでしょうか。いくつかの問いかけを試してみましょう。

その「もの」はどこから来たのだろう?

今、目の前にあるマグカップ。これはいつ、どこで、誰が、どのように作ったのでしょうか。どんな素材が使われているのでしょう。もしかしたら、遠い国で採れた土が使われているかもしれませんし、熟練の職人が手で成形したのかもしれません。その「もの」があなたのもとに届くまでの旅や、関わった人々の存在に思いを馳せてみてください。

なぜ、この形、この色をしているのだろう?

スマートフォンはなぜ長方形なのでしょうか?ペンのキャップはなぜ丸いもの、四角いもの、クリップが付いているものなど、多様な形があるのでしょうか?それぞれの形や色には、使いやすさ、デザイン、文化、歴史など、様々な理由や意図が隠されています。機能だけではない、作り手の意図や工夫、あるいは偶然性に目を向けてみましょう。

これを持つことで、自分や周りにどんな変化が起きているだろう?

お気に入りの服を着ると気分が上がったり、使い慣れた道具があると作業がはかどったりします。その「もの」が、あなたの感情や行動にどのように影響を与えているかを感じてみましょう。また、その「もの」があることで、部屋の雰囲気や、人とのコミュニケーションにどんな変化があるかにも注目してみましょう。

もし、これがない世界を想像したら?

スマートフォンがない一日、冷蔵庫がない生活、車がない街...。もし、あなたの身の回りから特定の「もの」が忽然と消えたら、何が不便になるでしょうか。そして、それ以上に、どんな感情を抱き、どのような代替行動をとるようになるでしょうか。その「もの」が自分にとって、あるいは社会にとって、どのような本質的な価値を持っているのかが浮き彫りになるかもしれません。

この「もの」に、もし感情があったら?

少しユニークな視点ですが、例えば、あなたが毎日使っている椅子に「もし感情があったら」と想像してみてください。「今日も座ってくれた」「もう少し丁寧に扱ってほしいな」など、擬人化してみることで、「もの」との関係性を全く違う角度から見つめ直すことができます。大切にしようという気持ちが湧いてくるかもしれません。

日常で実践してみるヒント

これらの問いかけを、特別な時間ではなく、日常の中で少しずつ試してみてください。

「もの」との向き合い方を変えることで、日常は豊かになる

身の回りの「もの」をアート思考で見つめ直すことは、単に「もの」を大切にすること以上に、自分自身の内面と向き合う機会を与えてくれます。なぜそれを選んだのか、それによってどんな感情が生まれるのか、自分は何を大切にしているのか。こうした問いを通じて、自己理解を深めることにつながるのです。

アート思考は、難しい芸術作品と向き合うことだけではありません。日常の「あたりまえ」の中にこそ、その実践のヒントはたくさん隠されています。

ぜひ、あなたの身の回りにある「もの」から、アート思考を始めてみてください。一つひとつの「もの」が持つ物語や、それと関わる自分自身の新しい側面に気づくことができるはずです。あなたの日常が、より豊かで意味深いものになる一歩となることを願っています。