アート思考で問い直す、デジタルデバイスという「あたりまえ」
私たちの日常は、スマートフォン、パソコン、タブレットといったデジタルデバイスなしには考えられないほど、深く根付いています。朝起きてまず画面を見る、移動中に情報収集をする、仕事や学習に使う、友人や家族と連絡を取り合う。これらの行為は、あまりにもあたりまえになりすぎて、私たちはその存在や、それらがもたらす影響について、深く考える機会が少ないかもしれません。
アート思考は、まさにこの「あたりまえ」に潜む問いを見つけ出し、私たちの見方や感じ方を豊かにするためのアプローチです。今回は、私たちの日常に欠かせない「デジタルデバイス」をテーマに、アート思考でどのように向き合い、新しい気づきを得られるのかを探ります。
なぜ、デジタルデバイスをアート思考で問い直すのでしょうか?
デジタルデバイスは非常に便利で効率的です。しかし、その便利さゆえに、私たちは無意識のうちに多くの「あたりまえ」を受け入れています。
- 情報過多というあたりまえ: 常に新しい情報が更新され、通知が届く状態が「あたりまえ」になっています。本当に必要な情報を選び取れているのでしょうか?
- 画面の中の世界というあたりまえ: 多くの時間を画面を見て過ごすことで、現実世界の体験がおろそかになっていないでしょうか?
- 「いいね」や評価というあたりまえ: 他者からの評価や反応が、自分の価値観や行動の基準になっていないでしょうか?
- 特定の操作(スクロール、タップなど)というあたりまえ: 指先ひとつで世界にアクセスできる身体性や、その行為の反復が私たちにもたらすものは何でしょうか?
これらの「あたりまえ」を問い直すことで、私たちはデジタルデバイスとのより健やかな関係性を築き、自分自身の内面や周囲の世界への気づきを深めることができると考えられます。
デジタルデバイスにアート思考で問いを立てるヒント
では、具体的にどのようにデジタルデバイスという「あたりまえ」に問いを立てていくことができるでしょうか。いくつかのヒントをご紹介します。
1. デバイスの存在を五感で感じる
普段、私たちはデバイスを「機能」として捉えがちです。しかし、それを一つの「もの」として、五感を使ってじっくり観察してみましょう。
- 視覚: 画面の色合い、文字のフォント、アイコンのデザイン、光の反射。使っていない時の画面の黒さ。傷や汚れ。
- 触覚: デバイスの素材感、エッジの形、ボタンの押し心地、画面の滑らかさや指紋。手にした時の重さや温度。
- 聴覚: 通知音、操作音、充電時の音、時には内部からかすかに聞こえる音。
- 嗅覚: 新品の時の匂い、長時間使用した後の微かな熱の匂い。
- 味覚: (直接舐めるわけではありませんが)例えば、デバイスを使うことで得られる「情報の味」や「コミュニケーションの味」を比喩的に考えてみる。
これらの具体的な感覚から、「この形はなぜこうなっているのだろう?」「この触感は私に何を感じさせるのだろう?」「この音は私にどんな行動を促すのだろう?」といった問いが生まれてきます。
2. デバイスがない世界を想像する
もし明日から一切のデジタルデバイスが使えなくなったら? と想像してみましょう。
- どのような情報にアクセスできなくなるか?
- 誰と、どのようにコミュニケーションを取るか?
- どのように時間を過ごすか?
- 仕事や生活はどのように変化するか?
この思考実験は、デジタルデバイスが私たちの生活のどの部分を支え、どのような「あたりまえ」を形作っているのかを浮き彫りにします。そこから、「なぜこれほど依存しているのだろう?」「失うことで気づく大切なことは何だろう?」といった問いが見えてきます。
3. デバイスの「意図」を想像する
スマートフォンのロック画面、アプリの通知、SNSのタイムライン。これらは全て、私たちに特定の行動(例えば、アプリを開く、投稿を見る、返信する)を促すように設計されています。
- この通知は、私に何をさせたいのだろう?
- このタイムラインの表示順は、何を基準に選ばれているのだろう?
- このデザインは、私のどんな感情や行動を狙っているのだろう?
デバイスやアプリの背後にある「意図」や「設計者の考え」を想像することで、私たちは受け身のユーザーから、問いを立てる観察者へと視点を変えることができます。
4. 特定の操作や時間に焦点を当てる
- なぜ、私は退屈を感じるとすぐにスマートフォンに手を伸ばすのだろう?
- 寝る前に画面を見る「あたりまえ」は、私に何をもたらし、何を奪っているのだろう?
- スクロールし続ける指の動きに、どんな意味があるのだろう?
日常的な無意識の操作や習慣に意識的に焦点を当てることで、隠された心理や行動パターンに気づき、問いが生まれます。
日常での実践例
これらの問いを日常生活で実践するための小さなステップをご紹介します。
- 「デジタル休憩時間」を設ける: 1日に1時間、あるいは短い時間でも、意図的にデバイスから離れる時間を作ります。その時間に何を感じるか、何を考えるかに意識を向けてみましょう。
- 通知を整理する: 本当に必要な通知だけを残し、他はオフにします。通知が減ったことで、デバイスとの関係性や時間の使い方がどう変わるかを観察します。
- 「なぜ?」を意識する: デバイスを開こうとした時、「なぜ今、これを使おうと思ったのだろう?」と自分に問いかけてみます。特定の目的があるのか、それともただの習慣なのか。
- 使っていないデバイスを観察する: 引き出しに眠っている古い携帯電話やタブレットを取り出し、それが使われていた頃の自分や、そのデバイスが持っていた機能、デザインなどをじっくり観察してみます。時間の流れや技術の進化、自分の変化に気づくかもしれません。
- 画面越しの風景と現実の風景を見比べる: デバイスで美しい写真を見た後、すぐに顔を上げて周囲の現実の風景を見てみます。両者の間にどんな違いや共通点を感じるか、どんな感情が生まれるかを探ります。
まとめ
デジタルデバイスは私たちの生活を豊かにしてくれた一方で、無意識のうちに多くの「あたりまえ」や習慣を生み出しました。アート思考でこれらのデバイスに問いを立て、五感で感じ、想像力を働かせることは、単にテクノロジーを批判することではありません。それは、自分自身とテクノロジー、そして周囲の世界との関係性をより深く理解し、意識的に選択していくための探求です。
日常の「あたりまえ」であるデジタルデバイスに目を向け、小さな問いを立てることから始めてみませんか。きっと、これまで気づかなかった多くの発見があるはずです。