アート思考のはじめ方

アート思考で広がる、日常の「色」の世界

Tags: アート思考, 日常, 色, 観察, 視点

私たちの身の回りには、色があふれています。信号の色、商品のパッケージ、服の色、空の色、植物の色。私たちはこれらの色を見て、瞬時にそれが何であるかを判断したり、情報を読み取ったりしています。しかし、日々の忙しさの中で、その一つ一つの色が持つユニークさや、私たちに与える影響について、深く意識することは少ないかもしれません。

アート思考は、「あたりまえ」になっている物事や現象に対して、「なぜ?」と問いを立て、新しい視点で見つめ直すことから始まります。この視点を「色」に向けてみると、見慣れたはずの世界が、驚くほど豊かで多様な表情を見せてくれることに気づくでしょう。

日常の「色」に対する「あたりまえ」を問い直す

私たちは普段、色を機能や記号として捉えることがほとんどです。例えば、「赤は止まれ」「青は進め」、「この商品のパッケージは安心できる色だ」といった具合です。あるいは、特定の感情やイメージと結びつけて考えることもあります。「青はクール」「黄色は元気」などです。

しかし、本当に色はそれだけの意味しか持たないのでしょうか。

同じ「赤」でも、夕焼けの赤と、熟したリンゴの赤、消防車の赤では、全く異なる印象を受けます。それは、光の当たり方や質感、周囲の色との組み合わせによって、私たちの目に映る色が微妙に、あるいは大きく変化するからです。

また、私たちは色の名前を知っていますが、同じ「青」を見ても、人によって感じる印象や、それが喚起する記憶や感情は異なります。ある人にとっては海の色で安らぎを、別の人にとってはどこか冷たい印象を与えるかもしれません。

アート思考のまなざしで「色」を見ることは、こうした「あたりまえ」になっている色の見え方や、色に対する固定観念を一度手放し、「この色そのものは、私にどう見えているだろう?」「この色は、ここでどんな存在感を放っているだろう?」と、純粋に感じてみる試みです。

アート作品における「色」の力

アーティストは、色を単なる再現の道具としてだけではなく、感情や思考、メッセージを伝えるための重要な要素として活用します。彼らは時に、現実とは異なる意図的な配色を用いて、観る人の感覚に強く訴えかけます。

例えば、同じ風景を描くのでも、写実的に見える色を使うか、感情を強調するために非現実的な色を使うかで、作品から伝わる印象は全く変わります。ゴッホの描く黄色は、太陽や生命の輝き、あるいは激しい感情を表しているように見えます。モネの描く睡蓮の色は、光の変化や水面の揺らぎが生み出す儚い美しさを捉えています。

アート作品の色を見ることは、単に描かれた対象の色を知ることではなく、アーティストがその色に込めた意図や感情、そしてそれによって私たち自身がどう感じるかに向き合うことです。それは、日常で無意識に見過ごしている色の奥深さに気づかせてくれます。

日常で「色」をアート思考で見つめ直すヒント

では、私たちの日常で、アート思考のように「色」を見つめ直すにはどうすれば良いでしょうか。いくつかの具体的なヒントをご紹介します。

  1. 特定の色に意識を向けて一日を過ごしてみる 今日は「青」に注目してみよう、と決めて一日を過ごしてみてください。空の青、服の青、標識の青、電車のシートの青。普段は意識しない様々な「青」が目に入ってくるはずです。それぞれの青が、どのように異なり、どんな印象を与えるかを感じてみましょう。

  2. 同じ色でも環境によってどう見えるか観察する 例えば、自分の持っている青いマグカップの色。昼間の自然光の下で見る色と、夜の蛍光灯の下で見る色、カフェの間接照明の下で見る色では、少しずつ違って見えるかもしれません。光の種類や周囲の色の影響によって、一つの色が見え方を変える面白さに気づけます。

  3. 普段選ばない色を手に取ってみる いつも無難な色ばかり選んでしまうという方は、たまには鮮やかな色や、普段は避けている色の服や小物を手に取ってみてください。その色を身につけたり、そばに置いたりすることで、どんな気持ちになるか、周りの景色がどう違って見えるかを感じてみましょう。

  4. 色の組み合わせやグラデーションに注目する 電車の車窓から流れる景色、公園の木々の葉の色、お店に並ぶ様々な商品のパッケージ。意識して見ると、そこには意図された、あるいは偶然に生まれた魅力的な色の組み合わせや美しいグラデーションがたくさんあります。どんな色の組み合わせが心地よく感じるか、見ていて面白いと感じるかを探してみましょう。

  5. 色から連想される感情や記憶を書き出してみる ある特定の色を見たときに、どんな感情が湧き上がりますか?何か具体的な出来事や場所を思い出すことはありますか?色と自分の内面を結びつけて考えてみることで、色に対する個人的な関係性や、自分自身の内面への気づきが得られます。

まとめ

日常にあふれる「色」は、単なる視覚情報ではなく、私たちの感情に影響を与え、記憶を呼び起こし、世界の多様性や豊かさを教えてくれる存在です。アート思考で「色」に対する「あたりまえ」の認識を少し脇に置き、純粋な感覚や問いかけをもって見つめ直すことで、普段は見過ごしている世界の美しさや面白さに気づくことができます。

特別な場所に行かなくても、高価な道具がなくても、私たちの日常はアートの種に満ちています。まずは身近な「色」から、アート思考を始めてみませんか。そうすることで、あなたの日常はより鮮やかに、より豊かな発見に満ちたものになるはずです。